2013年10月5日土曜日

FJ 20 Q&A

日本軍「慰安婦」は厚遇されていたという人たちがあげる文書に米戦時情報局のレポートがあります。これは、アメリカの戦時情報局Office of War Information(OWI)のReport, No.49(日本人捕虜尋問報告)1944.10.1付、のことです。このレポートの内容を見ながら、はたして、“厚遇”していた証拠になるものなのかどうか、検証してみましょう。

1 差別・奴隷制を見るときの留意点

現在の女性の人身売買・強制売春の犠牲者の中からも、ごくわずかであるが成功する者は出ます(たとえば大金をためて郷里に送金する者や、自らが売春宿経営者になる者など)。黒人奴隷制においても、成功する黒人がわずかではあるが出ました。歴史的に見ても、さまざまな差別・人権侵害の制度の下においても、差別される中からわずかな成功者が出てきます。しかし、その例をもって差別がなかったとは言えないですし、奴隷制はよかったのだと言うことはできないでしょう。ある制度や仕組みを正当化しようとする人は、例外的な成功例を持ち出すのですが、それにごまかされないような社会の見方が大切です。



2 OWIレポートを読むときの注意―レポートの作成のされ方の問題

ここでは朝鮮人慰安婦20名と日本人の業者2名が捕まり、かれらが尋問を受けているのですが、尋問担当者は日本語のできるスタッフです。業者は自分たちの行動を正当化しようとする傾向が働いているでしょうし、尋問担当者は日本語のスタッフであり、朝鮮語はまず理解できなかったでしょう。ですから当然、日本語のできる業者の言い分が強く入っていると見られます。



3 そうしたレポートであったとしても、よく読むと、次のようなことがわかります(「 」の中はレポートからの引用です)。

① 女性たちはだまされて募集されていた。つまりうその説明がなされていたことがわかります。

「病院にいる負傷兵を見舞い、包帯を巻いてやり、そして一般的に言えば、将兵を喜ばせることにかかわる仕事であると考えられてきた。」

「楽な仕事と新天地―シンガポール―における新生活という将来性」

「このような偽りの説明を信じて、多くの女性が海外勤務に応募し、200-300円(a few hundred yen)の前渡金を受け取った。」



② 彼女たちの大部分は、それまで売春には関わっていなかったことがわかります。

「大部分は売春について無知、無教育であった。」

もちろんそれまで売春に関わっていたとしても、騙して連れて行ってよいということにはなりません。



③ 女性たちは前借金で縛られていたことがわかります。つまり人身売買がおこなわれていたことが明らかです。

「家族の借金返済に充てるために前渡しされた金額に応じて6ヶ月から1年にわたり、彼女たちを軍の規則と“慰安所の楼主”のための役務に束縛した」



④ 半数以上は未成年者でした。

尋問されたのは1944年8-9月です。彼女たちがビルマに連れてこられたのが1942年8月、つまりちょうど2年前です。20人の慰安婦のなかで、連行された時点において21歳未満の者は、12人います。

21歳未満の者、つまり国際法との関係で問題になる未成年者は、たとえ本人の同意があったとしても、売春目的で勧誘・誘引・誘拐した者は、婦人・児童の売買禁止に関する国際条約(1910年条約と1921年条約、日本も加入)に違反する犯罪でした。どう言い訳しようと、国際条約に違反する犯罪であったことが、この尋問記録からわかります。

なお日本はこうした国際条約に加盟する際に植民地を除外するという条件を付けていますが、だとしても、日本国籍の船舶を使って連れて行った場合は(ビルマに連れて行ったのは船を使っていますので)この条約が適用されますし、また植民地を除外すること自体が必ずしも適法とは言えません。かりに植民地だから適用されないという解釈をとるにしても、普通であれば犯罪になることを植民地の女性には平気でやるというのは、明らかに差別であり、それを正当化するのは自らが民族差別主義者であることを自白しているだけでしょう。



④ このレポートとセットの東南アジア翻訳尋問センターSEATIC Report No.2 を読むと、前借金を返済すれば帰国できる契約だったが、戦況のためという理由と、説得されて、帰国できた者はいませんでした。



4 以上、このレポートを読むと、売春をしていなかった女性たちが、騙されて(詐欺)、前借金で縛られて(人身売買)、連れてこられたことがわかります。騙して、あるいは人身売買によって女性を海外に連行したことがはっきりとわかり、これは当時の日本の刑法226条に違反する犯罪でした。しかも半数以上の女性は未成年であり、たとえ本人が同意していても国際条約にも違反する犯罪でした。